テックダイブそれともトレックダイブ(2005)
初夏は月に数回は地面が干上がるほどの干潮があり、リップカレント(離岸流)が止まるタイミングを見計らうことができます。ウィングビーチなどはその代表例で、陸からすぐさま外洋に出られる(戻れる)貴重なポイントなのです。水中の地形は地割れしているようなクレバスがあり、その先には巨人の横顔のような岩も見られます。鑑賞出来る生物はカメ、サメ、ナポレオンなどの大物との遭遇とともに、ミノカサゴ、テグリ、ハゼなど、希少で綺麗な模様の小さな生物などです。ここ数日、続けざまにこのウィングビーチを潜って堪能していたのですが、心の中から悪い虫が・・・。その先に位置するもうひとつのポイント、タートルヘッドへ行ってみたい。今回はそういったお話を書いてみます。
ウィングビーチで潜る方法の一つは、浅場から沖合まで水面を移動し、そこから潜降する伝統的なダイビングのパターンです。深いところから浅いところへ戻ってくるので、空気の持ちがいい、滞留する窒素の放出が理にかなう、水中としてのコースは片道なので鑑賞時間を倍にできる、これら3つの利点があります。
泳ぎにくさ(水の抵抗)から水面遊泳が敬遠されがちですが、仰向けで行くのです。タンクを包んだBCにわずかに空気を入れて体をもたれてしまいます。重いタンクが空気中にあるのと違い、重心が下になります。水面に出るのは仰向きなので後頭部でなく顔面です。BCの空気も手伝うので、マスクを外して鼻と口から好きなだけ息が吸えます。
朝のグロットでみたブラックフィンバラクーダの群れです。近寄ってきました。
さて、こうして泳いでいくうちにお調子者となってしまい、次のポイントまでいけないか試みてしまったのが前日です。実際には沖合から沿岸になると風波による表層の流れを感じ中断しました。水中と水面の流れは別物なのでこういった判断もしています。しかしこれは表層の流れの向きを確認した下見として役立ちました。日にちが変わって、朝一番のグロットでバラクーダと戯れ、遊びすぎてしまった私とカミサマ(ハンドルネーム)はウィングの浅場で減圧だぁ、なんてふざけてポイントに到着しました。ちなみに私はすべてのダイビングを無減圧限界の範囲に収めていますのでご安心を。(減圧というのはある程度の水深による圧力をかけながらそれ以前の体内窒素を放出する時間を稼ぐことです。ある程度以上の水深に行ってしまっては意味がない。要するに理由をつけて、また潜りに行っちゃったのだ。) 始まりはウィングポイントからには変わりありません。ここの出入り口は岬の突端のようなところ。そこまで行くと干上がった岩が脇に通路のように見えます。それではいけるところまでここを歩いてみようとなりました。 しかしいきなり天井が低くなり、挟まってしまいます。しかたないので何度か腰をかがめて通り過ぎます。
覆いかぶさる岩をくぐるのにそのうち失敗してしまい、結局頭をぶつけてしまいました。(ウィング流血事件と呼ぶかどうかは定かではない。)見通しがよくなる場所に出ると、岩礁の棚を歩くことになりました。しかしこの水溜りのような場所、海草もあって滑りやすく深さも判らない。
カミサマ(ハンドルネーム)は股下よりも長い(少なくとも私のよりは)足ひれを突き刺して深さを確認しながら進んでいました。いい加減暑く、気温は35度を超えていたでしょう。カニも干からびています。今日はタートルヘッドまで陸路で行ってみよう。本当はそこにいく途中にイルカの休み場所がある気がしていたからなのですが、カミサマには言わなかった。
あいにくの風で水面の様子ではイルカは好まないのがわかりきっていました。長い距離を歩く際の対策として、私はタンクを上にずらした背負い方をしていました。頭上にバルブが出ている状態です。やっとのことでその場所に着きました。大きなその岸壁はカメの顔をしています。先ほどウィングビーチで係留していた2そうのボートはバンザイポイントをあきらめたらしく、この場所に来ていました。
なんだ、このほうが楽だよー、ねぇカミサマ。(ケチケチダイビングにも程がある~!)海べりにたどり着いたはいいが海面まで高い!水面直下に岩がない場所を左右に探します。かなり奥へ飛ばないと海底に激突する!
カメの顔に見えるかな
先回りしていたダイビングボート
エントリーするにはかなり高い
フリークライミングのように岩伝いに降りることも検討しましたが、途中で波に邪魔されそうです。一番安全な方法として沿岸警備隊式にフロントロールに決定(日本語ではでんぐり返し)。助走が付けられないので波間が盛り上がる瞬間にタイミングを合わせます。柔道で言えば一本背負いされて受身を取るようなものか!?海面に着水してみれば、YeeHah-!と自然に声がでて、カウボーイのような達成感!
この様子をにやけて連写していたのは、カミサマ。しかし、カミサマは足をそろえて降りるフィート・トゥゲザー式で降りた模様(グロット方式)。これも安全なのですが、股の締めが甘く涙ぐんでいました。お気の毒。(前面を押さえるのはマスクだけでなく、状況によりウェイトベルトの下部分も推奨!)。
やる気?
前転?
2m下に着水成功
水深7mのその場所は見事なサンゴが育っていました。2人は知り合いの船長に挨拶するためにわざわざ海上を進み船に近寄りました。期待に反して驚いてくれませんでした、またおぬしか?とは聞こえませんでしたが。
その船に浮上しようとするダイバーから好奇の目で見られながらも、垂直にヘッドファースト。横に割れた穴のそこを丁寧に散策しました。深海に棲むヒシガニの子供らしいのも見つけたり、小さいけれどカラフルな海老も見つけたりしました。
アーチの中側
水深6m
ここで内容的には1ダイブ分が終了、あとは流れに乗って6mくらいの深さをドリフト。ちょうど飛行機のように両手を広げ、手の角度を変えれば進路が取れます。これが気持ちいいのです。やはり前日に流れを確認しておいたことがよかった。 ウィングビーチにたどり着けばミヤケテグリの居場所を確認、壊れたサンゴが手の形をしているのに笑い、ウミガメも登場。長いダイビングでした。 エキジットして気がついたのですが、エントリーしてから潜降するまでの時間はおよそ1時間。それだけ歩いたのか。どうしてそんなことをしているのと自問自答。「そこに潜る場所があるから」なんちゃって。今度は近道を見つけておこう。 このダイビングはなんと名付ければいいのだろうか?特殊なダイビングをテックダイビングと呼んでいるらしい。しかし技術は普通。移動は沢登りか登山系?だったらトレック、トレッキング?うーん、そんな洒落たものではない。長い時間をゆっくり歩いたから、テクテクダイビングか。労力の割にかっこ悪いな。 そんなことより、「私を(普通の)ボートダイビングに連れて行って!」
報告:(お)組のかしら
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