スポットライトにビーチエントリー

2001年6月5日(火) 快晴 大潮

二日酔いでぐったりしながら、朝一番で、「禁断の水中」「ラウラウロック」を潜り、昨日計画した「へっへっへの秘密の場所」へ向かうべく、’カシラ’と’神様’と私はボートのチャーターへ。 しかし、用意されているはずのボートは、午前中届く予定の部品が来ていないとかで、おじゃん。車の中でがっかりしてふて寝している私たちに、カシラが「バンザイの方を見に行きませんか?」と一言。何の事やらわからんが行ってみるかということで、バンザイへ。

ここでカシラが「スポットライトをビーチエントリーしてみましょうか。だめそうだったらグロットに行きましょう。」半信半疑でバンザイの鎮魂碑脇の叢へ、ビーチサンダルをダイビングブーツに履き替えてエントリー。もちろんダイビング機材は車に残したまま。

数分歩くとそこからは溶岩が冷えて固まったゴツゴツの岩場。普通に歩くのも難儀なのに、機材を背負ってこんなとこ歩けるかなぁ・・などとぼんやり考えながら慎重に降りていくと、スポットライトの穴が見えてきた。約15分ほどの道行きだ。もうだいぶ海に近い。 穴をのぞくと(覗くのは嫌いではない)4~5メートル下に水面が見えた。以前、スポットライトにはボートで入ったことがあったが、そのときの穏やかな水中から見るのと大きく違い、穴の水面はゴゴゴゴと音を立てて呼吸を繰り返している。機材を背負って飛び込むことを考えると、足の裏がむず痒くなった。

そうしているうちにカシラが横穴を見つけた。飛び込まなくてもすみそうだ。大きな穴の数メートル先に、人一人がやっと通れるほどの斜めに降りる横穴。早速その横穴の安全をを確認するため、カシラが一人で降りてゆく。「いけそうですね」エコーのかかったカシラの声はいつもの淡々としたものだった。

潮の様子、タンクを背負う場所などを確認した後、何を思ったのかカシラは穴の内側のオーバーハングをクライミングし始めた。見事登りきったカシラは「大丈夫そうですね。」と一言。 私は、ありえないことと知りつつも、穴からエキジットした我々が、機材を背負ったままロッククライミングをする姿を想像して、薄ら寒くなった。とりあえずエキジットの場所も確かめておこうということで、バンザイ東の小さな岬の突端へ向かう。

 

足場はさらに悪い。バチアタリな写真をとりつつ、カシラがトランクス姿でエキジットのシミュレーションをした。寄せては返す荒波と、登るときの手がかりや足場を慎重に確かめながら、「いけそうですね」。いつもの調子だ。ゴツゴツした岩の中でも比較的安全な道を探しながら車に戻った我々は、カシラの「どうしましょうか、グロットにしましょうか」との問いに、「う~む」と言いながら機材の点検を始めた。

準備万端。バンザイの忠魂碑に非礼を詫び、無事を祈る。本番である。相変わらず道は険しく、タンクも背負っていたが一度通った道だ、下見のときよりは近く感じた。潮は上げ三分。エキジットを考えると時間的にはちょうどよい。

私が先に細い横穴から大穴の中へ。とても暑い。穴の内側は細長い8畳間くらいのスペースで周りに段があり、そこに機材を一旦ロープで吊おろす。相変わらず海水は穴の中で増減を繰り返している。   カシラと神様が降りてくるのを待つ間に潮の増減を数えてみた。16回目に一度水面が落ち着く。そこがチャンスだ。躊躇はできない。カシラに続いて我々も、海水で満たされた穴の中へ吸い込まれるように入っていった。

入水時間15時20分。閉幕したオペラ座にはスポットライトも脚光もなく、我々はただそこに徘徊する怪人のようにケーブの中を漂った。穏やかな水中は、カッポレやアカマツカサとともに我々を優しく迎えてくれた。 洞窟の外は広々とし、明るい波影の下にナポレオンフィッシュを映していた。徐々に高度を上げ水平に移動しながら安全停止を取り、カシラがシミュレーションをした場所へ向かう。

フィンを履いているぶんいくらか手間取ったが、無事出水。15時55分。35分間の夢に後ろ髪を引かれつつ、車へ到着。バンザイには観光バスが到着しており、日本人観光客が奇異の目で我々のスーツ姿を見ていた。いつものスポットライトがまったく違ったポイントになった、貴重な体験であった。

バンザイビーチエントリーは決して危険なものではありません。参加者それぞれが、自己責任の判断の中で、十分に下調べをし、気力も体力も充実した状態で行いました。潮の状態や天候をしっかりと考慮し、安全で楽しいファンダイブの手本とも言うべきものです。一言付け加えさせていただきます。