ザ・ラウラウビーチ

滞在中はずっと晴れていたのだが、最終日の今日に限って朝から小雨がポツポツと降っていた。気温は27℃弱。雨が降っているので、サイパンとしては少し肌寒さを感じる。午前は講習中のお客様と一緒に、ラウラウ、オブジャンを潜った。 その講習もめでたく終え、午後の2本はカシラをガイドにシャチョーと私の3人でのダイビングとなった。今回のダイビングは今日で終わり。ダイビングポイントの選択にいろいろと迷った挙句、シャチョーの「俺は膝が痛いのでグロットは無理だよ」の一言で、ラウラウに決まった。私はオブジャンでも良かったのだが、バリエーションに富んだラウラウは、何かを期待させる。最後は締めとして入っておきたい。 ラウラウに到着すると、「どうしましょうか」カシラのいつもの質問に、「どこでもいいですよ」とシャチョーのいつもの答え。ラウラウに来て「どうしましょうか」というのもおかしな質問であるが、「東から入りませんか?」と私。東といってもエントリー口としてロープが張ってあるところからでないことは、皆分かっているはずだ。でも、どこだか限定せずにとりあえずセッティングを済ませ、機材を担ぎ、波打ち際を左に歩く。

いつものエキジットロープのあたりに刺さっている棒を右に見て、砂浜を歩く。エントリーロープのあるタイドプールのあたりを越え、太い杭が刺さっているタイドプールも越え、大きな岩が突き出ている辺りまで来た。   「この辺でいいんじゃない?」社長が言いながら沖に向かって歩く。私は水際で「えー、もうちょっと行きましょうよ」と駄々をこね、カシラは板ばさみになっている。「少し休みましょう。いつもより150歩くらい余計に歩いてますから」カシラの言葉にタンクを水に付けしばしの休憩を取る。私があきらめきれずに「こんな機会あんまりないんだけどなぁ」とかなんとかごちゃごちゃ言っていると、カシラも「コンディション的にはまだいけないことはありませんよね」とか言いながら、追い討ちをかける。

とうとうシャチョーも「わかったよ。行くよ。端っこまで行けばいいのね。じゃあ、あそこの端の椰子の木の辺りまで行ってからエントリーしよう」と決心をした。それからのシャチョーの足は速かった。もともと足はカシラや私の1.5倍のストロークがある。やる気になれば同じ歩調では追いついて行けない。どんどん先に行くシャチョー。足場の悪い水際を500歩以上歩いたろうか、約束の椰子の木の下に到達した。そこはラウラウの東の端だ。 崖の上には綺麗な家が建っている。(こんなところに誰か住んでいるんだ・・・)  水中はふかふかの絨毯のような海草が敷き詰められ、一足ごとにブカブカという。カメの餌になりそうな海草の絨毯。そのうちその絨毯も少なくなり、足の踏み場もないほどの若い珊瑚の床となった。気をつけて歩かねば、珊瑚を壊してしまう。人が入っていない証拠だ。

そっとそっと足を運んでいくうちに岩礁が切れ、エントリーできそうなところが見つかった。「ここからエントリーしましょう」のカシラの言葉に、各々のタイミングでエントリー。ラウラウといえば、沖に向けて長い根が何本も走っているイメージがある。しかし、ここは違った。岩礁と珊瑚がびっしり隙間なく広がっているという感じだ。沖合いに向けて縦に走る線が見えない。7m程度の水深を、西に向かって進む。向い潮なのでひっきりなしにフィンを動かさなければならない。魚はあまり目に付かない。砂地もない。ところどころに大きく丸い珊瑚の影が見える。しばらく進むと、遠くに大きな魚の影が見えた。グレーリーフシャーク?いや、ブラックチップの丸々太った奴だ。ホワイトチップと若干違うシルエットは、サメ独特の美しい形を我々に見せつけている。動きが早い。

「いやな感じだな」と思いながら、ふと目を上に向けると、カマスが群れていた。また、どこからかブラックチップが現れ、我々を意識しながら泳ぎ去る。我々は構わずにカマスの群れに近づいた。50匹?100匹?水面近くをキラキラと向きを変えながら漂っている。ひとしきり観賞し、また西へ。

 

途中カシラが位置確認をしながらひたすら泳ぐと、見慣れたロープが目に入った。タイドプールのエントリーロープだ。   冒険を求めていたはずなのに、見慣れた光景になんとなくほっとする。エキジット後、「あ~くたびれた」を連発しながら車に帰った。

水面休息の後、「最後のダイビングはどうしましょう。オーソドックスに行きますか」とカシラ。「え~?西は行かないの?西!」と私。「行きゃぁいいんだろ、行きゃあ。ほら、行くよ」と、さっさと歩き出すシャチョー。またまた我々の1.5倍のストロークで歩いていく。

東側よりは近いが、それでも相当な距離を歩くことになる。「あれ?シャチョーって、足痛いって言ってなかった?」「そうでしたよね」ぶつぶつ言いながら後をついて行く。

ラウラウビーチの西の端は、ウイングビーチのエントリー口を思わせる、低くえぐれた崖になっている。16インチ砲台があるという、その西の崖に突き当たったところを沖に向けて歩く。

カメが好きそうな、しかし東側とは違った海草がびっしり生えている岩礁を歩きながら、エントリーできそうな場所を探す。小さな巻き波が消えている箇所が見つかった。そこがエントリー口として使えそうだ。エントリーして少し沖に向かったところに、ものすごく太い鎖(チェーン)が沈んでいた。何のチェーンだろう。長く伸びたそのチェーンの先をたどると、そこにはそのチェーンにふさわしい大きさの錨(アンカー)が横たわっていた。

  人の背丈ほどもあるアンカーは、半分、地にその身を埋めていた。長い年月の間、これはここにあったに違いない。どんなに海が荒れてもこれだけは形を変えない。そんな重量感を感じさせる代物である。そのアンカーを必要とした船の大きさはなんとなく想像できるが、なぜ水深5m程度の浅場にそれがあるのか。それも陸側に向かって掛けられたアンカー。後で考えても答えは出ない。

アンカーを後に深いほうへ泳ぎ進むと珊瑚が多く見えるようになってきた。私の感覚だと、ラウラウビーチの西側はサンビンセンテロックに近いため、大きな岩がゴロゴロ、というイメージがある。(時の話題:神様のお告げ『San Vincente Rock』参照)しかし、実際はいつものラウラウに似た、珊瑚あり砂地ありの光景が広がっていた。深いほうへ向かうと岩礁が終わり、オブジャンのような真っ白な砂地が広がった。砂に出来たリップルマークを斜めに横切るように北東へ向かい、位置を確認しつつ東へ。

砂はいつの間にか茶色に汚れてきた。前のダイビングは向い潮だったが、今度は送り潮。さほどの苦労もなくいつものパイプが見えてきた。パイプのイソギンチャクに棲んでいるハナビラクマノミは健在であった。しかしカシラはここで終わりにしなかった。通常通りパイプに沿ってエキジットロープから帰ればいいものを、うろうろとよく分からないところを動き回る。まだエアーがあるから良いが、「ここはどこ?」って感じ。 3mくらいの深度になり、岩礁がえぐれた横穴が見えた。カシラは穴の中に入って行く。真っ暗だ。少し進むと上から光が差し込んだ。タンクを背負った人がようやく抜けられるくらいの穴。小さな小さなスポットライト。え?まさか・・・ここから?カシラが穴からエキジットした。続いてシャチョーも。穴から顔を出すと、横に棒が突き出ていた。いつものエキジットロープの横にある棒だ。水深は膝よりも下。誰も近くにいなかったから良かったものの、誰かが見たらびっくりする光景だ。要するに、歩いている足元からいきなり人が出てきたように見えるわけだ。

  

ジャバジャバと海水を踏みながら岸へ向かう。さすがに皆表情に疲れが浮かんでいるが、充実感がある。

ラウラウビーチを東から西まで制覇したのだ。制覇してみて分かったことは、みんなが行っていないようなラウラウを潜るのも面白いが、いつも潜っている、パイプを中心とした東側の根と西側のゴロタの、変化に富んだ地形や生物層の素晴らしさであった。

しかし、ラウラウは奥が深い。
「いやー、よく歩き、よく泳ぎましたね」・・・ねぎらうようにカシラが言った。
すると、すかさずシャチョーが
「グロットにしておけばよかった・・・」
おしまい。( 2007/02/13 CSS )