『 嵐の後のサイパン 』 グアムに大きな被害をもたらした台風も去り、平和なサイパンに到着した我々は「マニャガハDEキャンプ」でお世話になった、「いいとも船長」のボートをチャーターした。
ジョーテンでおにぎりを買い、ボートにタンクを積み込んだ。タンクは全部で16本。シャチョー、神様、ひょっとこ、そしてカシラ、それぞれ4本分だ。天気は良いのだが、風がある。とりあえず出港したものの、行き先が決まっていない。風が北北東から吹いているため、ウイング、バンザイ方面はあきらめている。行くとすれば、南回りでナフタン近辺までだろう。沖には白波が立っている。ゴルフ場から空港に回るあたりは、ものすごい波で先が思いやられる。オブジャンを越え、ナフタンのブイも越える。ナフタンのブイは静かに浮いているのだが、その先がまたすごい波だ。そんなところでは、どうせエントリーできないに決まっているのだが、ナフタンの先にあるすごい所を海側から見たかった。
『 すごい所 』
以前にビーチエントリーしようと試み、断念したところだ。隆(りゅう)とそびえる崖は、相変わらず人間を拒んでいる。打ち砕ける波に見え隠れする「渦のある棚」は、とても人が入れるような所ではない。海側から見ても恐ろしいところである。こんな場所によく来たものだ。
ナフタン岬の南の遠方に目を移すと、そこには潮目がはっきりと見えた。あれが近寄ってきたら例えドリフトダイビングをしたとしてもかなりきついエキジットとなることは目に見えている。下手をすれば船とはぐれる。
ナフタンに戻った我々は、急いで身支度を整え、海の中へ。先ほどの場所とは打って変わって、波はほとんどない。流れに乗ってドリフトダイブをするつもりであった。相変わらずの美しい海と魚たちは、諸手を広げ我々を歓迎してくれた。ツムブリの群れが通り過ぎる。
久しぶりのナフタンを堪能していると、ふと違和感が我々を襲った。思った方向に流されていないのである。潮は読んでエントリーしたはずだ。吹送流とコリオリの力による方向偏差か、遠くの潮目のなせる技か。途中から向かい潮を泳ぐ羽目になった。「いいとも船長」もその辺のところは考えていたらしく、船はナフタンのブイに係留されていた。いや、あらかじめそういう事態に備え、カシラと「いいとも船長」との間で約束事が出来ていたと考えるのが妥当だろう。沖に流されながらのエキジットになれば、大波のところまで出てしまうことも考えられ、危険が伴う。我々は次第に強くなる出し潮の中、係留ロープに掴まりながら安全停止を取りエキジットした。
船に上がった我々が見たのは、目前に迫った潮目であった。我々とすれ違いにダイビングボートがナフタンに係留したようだが、あの潮で潜ることはかなり困難であったろう。まさに数十分の違いであった。潮目談義もほどほどに、我々は次なるポイント、これまた久々のディンプルへ向かった。
ディンプルでは駆け上がりならぬ、駆け落ち方面へ行こうというのである。ダイバーを迎えるキイロチョウチョウウオは相変わらずものすごい数で、うるさいくらいだ。写真もろくに撮れない。そのまま西の駆け落ちに降りて行く。水深27メートル。深いのが2本続いてしまった。
3本目は灯台沖に進路をとった。灯台沖のポイントはこの辺だろうということで、適当に錨を沈めた。間違えた。潜ってみると全然知らないところだった。どこだろう、ここは。カシラは、多分いつものポイントの数百メートル西側だろうと言う。泳ぐか。いや、今日は結構疲れている。錨の周辺で遊ぶことにした。浅場だが、大きな根もあり面白そうだった。根には小さな洞窟があり、ちょっとした探検気分が味わえた。ハマクマノミやミツボシが群れているところもあり、なかなか楽しいところであった。
今日のダイブはこれにて終わり。日が沈むにはまだまだ早いが、明日に備えて引き上げることにした。
『 下見 』
むかしむかし、サイパンに「カウタウン」というテーマパークみたいなやつがあったそうな。海から程近い場所にあったそうだが、いつしかその場所は寂れてしまい、人の噂にも上らなくなってしまったそうな。
ある日のこと、何処か良いビーチダイビングスポットはないかと、うろうろしていたオーシャンクラブの探索隊は、鉈やら鋸やらを持ち出して、あっちゃこっちゃを探っていた。狭い道にジープを乗り入れ、道を切り開きながら進むと、なにやら門のようなものを見つけた。その門には、まぎれもなく「COW TOWN」と書かれていた。
探索隊の目的はカウタウンそのものではない。ジープを乗り捨て、荒れ果てた道を海辺まで一気に駆け下りた。視界が開けた。海である。チューブが出来てサーフィンにはもってこいの海だ。海岸には戦時中の痕跡らしきものも見える。上陸できそうな海岸だということは、エントリーできる海岸だということだ。波が静かな時期に、潜ってみたいビーチである。皆さん、私より先に「カウタウン」。いかがかな?
December 2002